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2 経営感覚に関する考察

2−1 商人精神

 授産事業は「障害者の自立」が第一目的であるが、とかく「商い」の視点が忘れ去られがちである。それは「福祉」か「商売」かの視点に惑わされるからである。自立とは生活力・経済力の獲得(拡大)であるが、障害者支援のうえでは「福祉」の視点が不可欠な前提条件である。このとき「福祉」に関連する多くの支援手段の中のひとつに「商売」があると考えれば、惑わされずにすむ。
 純粋な営利企業とは異なる福祉施設が行う業務であるのだから「福祉アプローチ」であることには間違いがない。それでも「授産事業」は「商売」に一番近いところで業務を展開する。もちろん「商売」抜きの福祉支援業務もある(むしろその方が多い)。しかし授産事業に基づく「商売」を中心軸に据えて支援業務を行おうとするときに「商い」がいいか悪いかという議論をするのは筋違いである。「商売」を前面に出して「福祉」を考えなければならない。「福祉」ベースの上に「商売」が乗っているという構造である。
 商人精神のポイントは「お客様からお金をいただく重み、苦しみ、そして喜びを味わえ」ということである。サラリーマンは労働の対価として賃金を受け取る「権利」がある。しかし商人には労働の対価として「賃金」を受け取る権利はない。お客様のお買いあげがあってはじめて「代金」を受け取れる。あなたは道に100円玉が落ちていたら拾うだろう。またテーブルの上に千円札が置いてあったら、誰のものかと心配になるだろう。商品にも(サービスにも)間違いなくそのような価値があるが、お金と同じような大切な扱いをする感覚を持てないと商売はできない。なぜなら商品をお金と同じ価値でみなせないような意識では、お客様にお買いあげにつながる行動の動機付けをする発想が生まれてこないからである。


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2−2 動機付け

 お客様が商品を購入するということは、お客様の「購入行動の結果」である。ではなぜお客様が購入行動をとるのかを考えてみよう。人間は無意識で購入行動をとることはない。必ず「ある意識」をもって購入(行動)する。たとえば「これがほしかったから」「手元に置きたいから」「今すぐ使いたいから」「今買わなければなくなってしまうから」「いつか必要なときがくるかもしれないから」「安いから」「おいしいから」「役に立つから」「便利だから」「他に持っている人がいないから」「格好いいから」……。(注1)
 このようなある意識のことを「動機」と呼ぶ。行動を引き起こすきっかけである。行動を引き起こす理由である。なんらかの「きっかけ」や「理由」があって、次の行動に結びつく。したがってたとえば「購入」という行動をお客様に起こさせようと思うなら、「きっかけ」を作らなければならない。お客様が「買おう!」と決意する「きっかけ」である。あるいは「理由」を用意しなければならない。お客様が「私はこのような理由でこの商品を買いました(そして満足しています)」と第三者に話すことができるような理由を用意しなければならない。
 授産事業(販売事業)を「商い」の観点から見直すポイントはこの「きっかけ作り」・「理由の提供」、すなわち「動機付け」にある。
 お客様が購入するという行動は、自然に発生するのではなく、「商人」が創り出すものなのである。この動機付けを実践する人こそが「商人」である。前項の「商人精神」とは言い換えれば「動機付け」こそ本業と心得よ、という意味である。
 だから、授産事業として「商売(あるいは販売)」を成功させたいならば、このポイントを外してはならない。今自分たちの実践していることが、お客様の動機付けにどのように結びついているか。このことを検証しなければならない。すなわち「自分は商人か」という検証である。その結果「商人ではない」と出たら、残念ながら「商売」はうまくいくはずはない。商売を通じた「福祉サービス」で顧客満足を得られるはずがない(換言すると満足のいく工賃を支払えるだけの利益を生み出せず、結果的に障害者本人の生活や自立を支えられるはずがない)。
 繰り返すが、販売事業を成功させるには、まず「商人」になること。つまりお客様が商品を購入する「動機付け」を実践すること、お客様に「買い物をする理由」を提供すること、である。
 販売のエッセンスはここにある。商品をレジに打ち込み代金を頂き包装し、ありがとうございましたとていねいに見送り、店内を清掃し、ボリューム感を持って商品陳列しても、ここを外しては、十分な利益は生み出せない。
 授産事業で製造・生産し、あるいは仕入れた商品を「販売」するためには、その商品をお客様が「なぜ買わなければならないのか」のきっかけと理由を作らなければならない。
 ここでひとつの例を挙げよう。販売の現場である商品の売れ行きが不振だとする。その理由をどのように考えるか。安易な原因分析は「値段が高いから」である。そしてこれまた安易に値下げで対応する。「お客様は高いと思うから買わないのであって安くすれば買う(あるいは買える)はずだ」と。しかし販売現場を多少経験された方なら、このような策が解決の決定打とは思わないはずだ。値下げの効果は少なくとも「長続きしない」からである。多くのお客様は値下げを、自分のためのこととは考えない。店側の事情のための値下げと考えるのである。だからまず値下げに不審を抱いてしまう。「古いのではないか」「きずものではないか」と。お客様が唯一歓迎する値下げは「あなただけ特別」という状況のときだけである(しかしこれは値下げを歓迎しているのではなく、自分だけが選ばれたことを歓迎しているのであるが)。
 値下げをするならば値下げの理由を提供しなければならない。それは一枚の『本日値下げ』のというPOPだけでは不十分である。次のようなものはどうだろうか。『本日のおすすめ 当店では値下げをしません。それは商品価格に工賃(障害者の生活費)が含まれているからです。お客様に1つお買い上げいただくごとに○○円の工賃を支払うことができます。お客様のお買い物が障害者の生活を支えています。しかし本日この商品に限り値下げします。それはこの□□□のおいしさをすぐに知ってほしいからです。』
 もうひとつ「商売」の難しさを示そう。それは「儲ける」ことは「悪」であると考えてしまいがちなことにある。つまり一方で儲けるということは、他方で「損をする」ことを自動的にイメージしてしまうところにある。だから発想の転換をしなければならない。「儲けは満足の対価である」と。損をさせたのではない、満足をさせたから十分な利益が得られたのだと。
 そして次のことをよく考えてほしい。われわれは「消費者(買い手)が商人(売り手)より愚かである」と思いこみがちである。商人は販売のプロだが、消費者は消費のプロではないと。だから消費者を騙してはならない、商人が大きな利益を求めることはすなわち消費者を騙すことそのものであると。(注2)
 この「思いこみ」から脱しなければならない。この「思いこみ」にとらわれていると、商売がうまくいかず、消費者に喜んでいただけるような商品・サービスの提供ができていないにもかかわらず、消費者権利を守ってフェアな商売をしていると自己満足の勘違いしてしまう(自分ひとりならばその勘違いも許されるが、福祉の現場でこの勘違いを展開されたならば、障害者が巻き添えを食うことになる)。
 消費者は自分で購入したいと思う商品・サービスを、ほしいと思うタイミングで提供されれば、とても満足して購入するのである。高いか安いかは消費者が自分の満足度と比較して判断するものであり、消費者より賢い商人が適正価格を示すかどうかで満足(つまり損しないという状況)が決まるのではない。
 となると商人がすべきことは(これこそ販売のプロとしての使命になるのだが)商品・サービスの「良さ」を伝えることである。80円のあんパンと120円のあんパンは何が違うのかを示すことである。売り手しか「本当の40円の違い」の理由は分からない。材料なのか、製法なのか、何かのこだわりなのか。売り手が「40円高くても『それだけの良さ』がある」と思いこんでもそれがそのまま正確に消費者に伝わってはいない。「それだけの良さ」こそが満足の源泉であり、儲けの源泉であり、それがそのまま工賃になる。もう一度考えていただきたい。「40円得です」という安易な発想で、本当の満足を伝える努力を怠ってきてはいなかったかを。
 『いっぱいの満足を与えたからいっぱいの利益が得られる』これが商人のもつべき理念である。


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2−3 組織経営理念とは組織作りの理念である

 明朗塾では平成15年6月から株式会社船井総合研究所の経営コンサルティングを受けた。
 平成15年は社会福祉基礎構造改革による支援費制度が障害者施策に導入された年である。措置から契約へという大きな動きが始まった。支援施設を利用する障害者本人およびそのご家族が、施設と契約を締結してサービスを購入することとなった。不完全な環境ながらも福祉サービスに市場性が見え始めた年である。
 明朗塾が、障害者福祉サービスを提供する事業者としてどのような新商品開発をしながら魅力ある商品(福祉サービス)の提供をし続ける体制を作り出すか、そして消費者(障害者及びそのご家族)に選択されるような魅力をもつには、どのような組織としての理念をもつべきか、に対するアイデアを模索するためである。
 コンサルティングの結論の重要な点は、福祉サービスの提供を通じて顧客満足を求めるならばその職務に邁進する職員一人ひとりが仕事に誇りが持てるようにすること、であった。
 コンサルティングでは、「明朗塾ブランド」を構築するために、障害者およびそのご家族(明朗塾の提供するサービスの購入顧客)が、?生きることに誇りを持ち、?家族(友人、地域)に愛されていることを実感し、?自立のために支援を受けることを実感し、?明朗塾の存在が長期にわたる「安心」の根源であると心から感じるため次のように提起された。
 明朗塾が、?そこで働く職員が誇りを持ち、?自分たちが強みとする商品(サービス)を明確にし、顧客が生きることに誇りを持てる商品を提供する。?顧客との密度の高いコミュニケーションを維持し?「安心」と「自立」のための支援を提供する。
 お客様の「幸せな人生」とは「働くことで人生の楽しみや地域社会との関わりを持ち自立すること」であり、働く楽しさを知るには授産事業の収益性向上(賃金額増加)は絶対条件である。働く誇りを実感するには、授産事業で製造販売する(明朗塾の場合は)「パン・野菜等」が地域の人々の生活に欠かせないものであることを伝えなければならない。障害者本人が家族や友人、地域から愛されていることを実感するには、一緒に時間を過ごすためのサービスを開発して提供しなければならない。お客様が幸せな時間をたくさん作るために、身体面・精神面・生活面の自己管理や充実した余暇を過ごすためのサービスを開発して提供しなければならない。
 これら具体的なアプローチ方法を通じて、職員全員が仕事を通じてお客様に「幸せな人生」を提供するプロ集団になること、に気づかされたのである。お客様が幸せな人生を送り、そのことを見届けることが明朗塾職員の仕事であり、お客様に幸せな人生を提供できる仕事に誇りを持つこと。より多くのお客様に幸せな人生を送っていただくために自らの力を磨いていくこと。この仕事を選んだからには、より多くの幸せな人生を見届けることによって「自分たちも幸せになろう」と。
 コンサルティングでは「どのようにしたら顧客満足が得られるか」と尋ねたら、「職員が誇りをもてるような組織づくりを目指すこと。顧客に選択していただくため明朗塾のサービスを明確にすること」という2点の提示があったのである。
 また9月のコンサルティング中間報告会の席上、明朗塾職員の「顧客を選ぶことはできないのでしょうか」という問いに、船井総研の佐藤芳直常務はその後の明朗塾のサービス方針を決定づける重要な回答をした。
 「100%個別対応をしようと思うなら、顧客を選ばなければなりません。顧客を選ぶ前提として施設がどのようなサービスを提供し、どのような施設にしたいかということをコミットしなければなりません。」
 佐藤常務の「顧客を選ばなければなりません」とは、明朗塾が恣意的に顧客を選択するのではなく、明朗塾の看板(ブランド)を明確にして、そのことによってどんなに遠くに住んでいようとまたどんなに金額が高くても明朗塾のサービスを受けたいという顧客をサービスの対象にするということである。つまり「明朗塾でなければだめだ」という顧客に利用していただくことがすなわち明朗塾にとって顧客を選ぶということになるのである。
 それではいったい「明朗塾はこういうサービスを提供する施設です」と今までコミット(宣言)してきたか。実は十分にしてこなかった。この点を佐藤常務は結果として指摘したのであり、職員の疑問の根源もここにあったのだろう。明朗塾の実態は次のようなものであった。
 『八百屋なのに食料品店という看板を掲げて営業していた。野菜果物以外の商品も多少取り揃えた。お客様に新鮮なアジが欲しいのにないじゃないかとクレームを言われた。アジより大根の方が身体にいいですよと一生懸命説明していた。』
 『行き先を明示しない列車に「座席が空いていますよ」とどんどんお客様を乗せて、そのうち乗客の中から「自分の思いと違う方向に進んでいくから話が違うじゃないか」といわれて混乱していた。はじめから行き先を決めていればその行き先に行きたくない人は乗らなかったはず。』
 それでは明朗塾の看板は何だろうか。上のたとえ話をひけば、どこへでもいける列車では身動きがとれなくなる。サービスはそうではない。例えば東京に行きたいという人にだけサービスを提供する。しかも東京に行くからには必ず到着するし、車内は確実に快適にするし、障害があって通常の椅子に座れない人には特別の椅子を用意する。そこでは東京に行きたいということでは乗客の思いは一致する。乗務員もまた東京到着に向けて一意専心努力する。成田や銚子に行きたい人は別の列車がある。これがサービスの一つの本質であろう。
 明朗塾は「働く」を重要なキーワード(看板理念)としている。もちろん人には様々な幸福観がある。「働く」ことがなくても幸福になれるだろう。しかし明朗塾ではこのことを明確にした。


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2−4 目標設定はなぜ重要か

 2−4−1 計画すなわち目標・ゴールの設定
 明朗塾は平成14年12月にISO9001:2000(品質マネジメントシステムに関する国際規格)の認証取得をしたが、この取得に向けて福祉サービスを提供する業務を分析し、各業務をPDCAに基づく「プロセス」という単位に分解して、もう一度そのつながりを明確にさせる作業を行った。PDCAとは、Plan(計画)Do(実行)Check(検証)Act(改善)のことである。
 意外に一番難しいのがPlanである。従来の仕事を見直してみると初めに計画を立てていないことが多かった。計画とは目標・ゴールの設定のことだから、目標のない仕事はすべて「結果オーライ」となってしまう。この結果、問題点が見出せなくなる。問題点とは、現地点と目標・ゴールとの差のことであるから、目標・ゴールがなければそもそも問題点は発生しないことになる。厳密に言えば問題点の共有ははかれないということになる。もちろん問題として見つけようとすれば見つけられるが自己評価、自己採点は困難で、目標・ゴールを設定していないときの問題点はいきおい、うやむやにされる。様々な障碍を並べ立てて「まあまあだった」で終わしてしまうことになる。
 だから、はじめに「Plan目標・ゴールを設定すること」ができていなければその後のDoもCheckもActもままならなくなる。「ゴールに向けての効果的なDo」や、「PlanとDoの差を監視・測定し解決すべき問題点を明確にするCheck」、「その問題点を是正したり、発生しないよう予防したりする活動を継続的に行うAct」ができなくなるということである。

 2−4−2 改善目標なくして何ができるのか
 
一番難しいのがPlanだが、それはこの目標・ゴールの設定が簡単にはいかないということでもある。計画する上でまず現状分析をする。そして改善すべき点(方向性)を探る。そして何をどうすれば改善できたことになるのかを考えなければならない。製品製造ならば、コスト改善とか、不良率の減少とか具体的な数値をあげての改善目標設定が可能である。しかし福祉サービスにおいては、何がどうなればその業務が改善できたことになるのであろうか。
 たとえば「食事サービス業務」はどうだろうか。残食(食べ残し)の量を測定する方法がある。食べ残しを減らす方法として、カロリーは維持してもボリュームの少ない食事にしたり、食べ残しをさせない(好き嫌いを許さない)方針を立てたりしたら、顧客は困ることになる。栄養価をできるだけ高いものにという目標も、健康上採り得ない。
 「医療・看護処置業務」はどうか。医務室に来室したり病院受診したりする数量を測定できるが、単に医者にかからなくなればよいというわけではない。健康診断で良好という判断が多くなっても健康は身体上だけのものではないから、精神上、心理上の悩み事相談で医務室を訪れる顧客も多い。
 「相談・カウンセリング業務」はどうか。相談・カウンセリングは少なければ少ないほどよいのか、それとも多ければ多いほどよいのか。
 このように考えると、目標・ゴールの設定、改善の方向性は簡単には見えてこない。
 しかし、見えてこないということは、今までの業務の中でこのことが実はよく検討されてこなかったという証拠である。だからこそ、このまま放置していてはいけないということなのである。ISOを導入することはすなわち、これからは放置せず何とかしよう、少なくとも業務のシステムとしてこのことを明確にしなくては先に進めないようにしよう、ということである。
 社会福祉法人経営者向けの講座でも目標の重要性については取り上げられる。と同時に目標設定の難しさも強調される。「PDCA」ではなくて「DCAP」でよいという講師さえいる。つまり、はじめに目標がたてられなければ、まずDOをすればよい、その後検証すれば改善点が明らかになるから新たな目標が立てられると。
 改めて確認したい、なぜ目標(ゴールの設定)にこだわるのか。目標がなければいったい何を検証したらいいのか。検証とは問題があるかどうかを明確にすることである。問題とは目標と現状との乖離度(落差)のことであるから目標がなければ決して検証できない。それでも検証できるとすればそれは職員個々の心の中にある別々の目標像との乖離点(問題)だけである。
 世界有数の経営コンサルタント会社であるマッキンゼー&カンパニー社の問題解決方法のテクニックはつぎのようなものである。まず問題を構造分析(MECE(ミーシー)といい、問題を重複しない別個の問題点に分割し、しかも関連ある問題点を一つも見落とさない)し、解決策となりうる仮説を立てるところから始まる。仮説を分析し、情報を収集し、分析結果を解釈する、と進むわけだが(イーサン・M・ラジエル、ポール・N・フリガ『マッキンゼー式世界最強の問題解決テクニック』)、ここでもPから始まることがわかる。
 また、エンジニアリング・建設業界の業務マネジメント・ツールである「プロジェクト・マネジメント」という手法によると次のように説明される。プロジェクトとは時間、資源(ヒト・モノ・カネ)、スコープ(プロジェクトの規模とか範囲という意)・品質の三つの要素を管理し、バランスをとりながら行うことである。これらを管理する手法が「プロジェクト・マネジメント」である。建設業界では、ビル建設のときなどに用いる。具体的には次のように進む。

  1. 目標を明確にする。
  2. 作業を分解する。
  3. 役割分担し所要期間を見積もる。
  4. 作業の依存関係を調べ、クリティカル・パス(最も長くかかる所要期間の合計)を見つける。
  5. スケジュールを作る。
  6. 負荷をならす。
  7. 予算を作る。
  8. リスクに備える。
  9. 進捗を管理する。
  10. 事後の見直しをする。

中嶋秀隆、津曲公二『実践!プロジェクト・マネジメント』)1から8までがP、9、10がC、Aとなることは明白である。Pができなければ、まずDからなどという論理が通用しないことはこれらのことから分かる。

 2−4−3 顧客満足確認もPDCA手法で
 改善目標は、顧客要求事項と密接に関係する。顧客が要求しないことや要求しない方向へいかに改善しようとも、それは事業者の自己満足にすぎなくなる。民間企業ならば製品・サービスが市場に受け入れられずに利益を上げることができなくなり、存続ができなくなる。公益性のある社会福祉法人は社会保障費(支援費)による収入保証があるから存続できなくなることはない(今後はそうとも言えなくなった)が、顧客(障害者やその家族、地域)を裏切り国民を欺くことになる。
 では、顧客満足度や顧客要求事項をどのように認識していくか。これがまた非常にデリケートであり、難しい問題である。知的障害という障害特性を科学的に理解することからスタートしなければならない。そして面接や言動の観察を通じて理解・評価していくわけだが、コミュニケーション能力など社会的能力に限界がある顧客の要求事項を確認する手だては簡単ではない。最低限、科学性を失ってはならない。つまり、いままでこうしてきたから、これからもこうすればよい、とか、自分が一番長く接してきたから、自分なら障害者本人の気持ちが分かる、などという思いこみは大変危険な徴候である。本人の気持ちが分からないからといって家族が喜んでくれる方法で代替することもまた十分とはいえない。顧客の権利擁護のために人権保障の観点から福祉サービスを検証することで、顧客要求事項の確認を補完していく方法も考えていかなければならない。
 カウンセラーの聞く技術や各種観察方法を駆使して、本人の意思確認をとるときにもPDCAの手法を用いることはできる。
 福祉サービスは対人サービスであるので顧客満足の度合いは提供してみるまでは分からない、提供してみてもそれがよいのか悪いのかは本当のところなかなか分からない、顧客が知的障害者という特性による面もあるが、そもそも幸福観はひとそれぞれだからである。したがって私たちは常に「仮説」をたてなければならない。その仮説に基づき実験(サービス提供)を行い、それを検定する。『ある仮説が「正しいかどうか」を評価するには、その仮説が「検証可能」でなくてはならない。「検証可能」とは、同じ条件でその現象が再現でき、何らかの指標によって、仮説どおりの事態が起きているのか、そうでないのかを客観的に判定できる、ということである。実験心理学では、この検証可能性や、いったん導き出された法則が正しいかどうかを評価するために、追試ができる「反復可能性」(再現可能性)が重視される。どんなすばらしい実験でも、それが他の人によって、同じ条件で同じ手続きで行えば、同じ結果になる、という枠組みがなければ、ただ1回の「偶然」とみなされてもしかたがないのである。』(鑪幹八郎『心理学研究法特論』放送大学大学院教材2002年3月、pp27〜28)
 上記の「検証」の考え方も「仮説あればこそ」なのである。「仮説」がなければそもそも検証はとりようがない。ここでいう「仮説」こそが「目標」なのである。
 目標がmeasurable測定可能でなければならないというISO規格の要求は上に引用した文の中からも読みとれるであろう。

 2−4−4 サービスの品質保証をどうするか
 
福祉サービスの特性の一つに、提供と消費の同時性がある。これは、福祉サービスは提供される前にそのサービスが不良品(不適合)かどうかの判断をすることができないということである。サービスを受け取ってしまった顧客に対して「今のサービスはなかったことにしてほしい」「もう一度やり直しさせてほしい」というわけにはいかない。もちろん即時判定の不能性という一面もあるから、サービスがよかったかどうかはしばらくしてみなければ分からないという面もまたある。医療サービスはその典型である。
 この「やってみなければわからない」性質をどのように保証していくかのシステムが必要になるわけである。
 たとえば製造業でのハンダ付けやメッキ工程はその場では良不良の判断ができない。先の工程へ進んで通電試験をしてみたら、ハンダ付けの工程が不良であったとか、年月を経てからメッキの不良が発見されたとかいうことがある。
 こういう状態に対しては、担当作業員の能力を検証して保証することができる。つまり、能力を認定されたこの作業員のやった仕事ならば、確実だという判断である。
 これを明朗塾に応用している。職員の能力を検証するシステムをもって保証しているのである。不十分であることが判明したら、直ちに教育、研修し直してから改めて現場を担当するというシステムである。これによって間接的に福祉サービスの品質を保証していくという手法である。どのような力量が職務に必要なのか、その力量を割り当てしていく仕組みはどのようにして作るか、ISO認証取得後の現在でもこの点について検討し続けている。


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2−5 計数管理と目標設定(明朗塾の製パン事業の例)

 授産事業においても目標設定は重要である。ここで明朗塾の製パン事業の例をあげて、目標設定の手順をみていく。
 販売額は多ければ多い方がよいのだろうが、具体的な目標値が市場特性を無視して決められるとその後の行動によい影響をもたらさない。

 2−5−1 市場占有率(マーケットシェア)の目標を設定する
 
市場占有率とは、市場の需要全体に対する自社への需要の比率を意味するものである。業種業態によって様々な考え方や表現の方法があるが、物販・小売業を想定した場合、

  1. 任意の地域や市場において自社の商品がどれくらい売れているかを示す指標 
  2. その地域の(人口)総数に対して自社の顧客が何人いるのかを把握する場合は、顧客/人口総数が市場占有率となる。

 具体的に市場占有率にどのような意味があるかを考えることで、目標を決定する。
 クープマンの目標値をまとめると下表のとおりとなる。

区分

シェア

特  性

実  例

独占的市場

73.9%

要するに独占シェアである。このパーセンテージを取れば、短期的に見ればトップが引っ繰り返る可能性はほとんどあり得ない。

家庭用ゲーム機(0.0%ソニー)
家庭用光ファイバー通信(73.6%NTT)
紙巻きたばこ(72.9%日本たばこ産業)
カラーフィルム(68.7%富士写真フィルム)
食器洗い乾燥機(67.7%松下電器産業)

相対的独占

55%

競合市場においてほぼ安全。

腕時計(57.0%シチズン時計)
液晶テレビ(56.6%シャープ)
携帯電話(56.3%NTTドコモ)
二輪車(55.0%ホンダ)
太陽電池(54.4%シャープ)

相対的安定

41.7%

市場で首位のブランド、ないし企業41.7%のシェアを占めている場合、トップの地位は安定しており、不測の事態に見舞われない限り、逆転されることはない。この数字はシェア獲得の最終日標として掲げられることが多い。トップにこの数字を握られると、下位ブランドや企業はシェアを上げにくくなる。またこのような市場では、特別に有利な条件がない限り、新規参入しても成功する確率はきわめて少ない。

外国語学校(50.0%NOVA)
電子辞書(48.9%カシオ計算機)
国内航空(48.7%JAL 46.9%全日空)
ビール(48.2%アサヒビール)
インクジェットプリンタ(45.6%エプソン
            41.6%キヤノン)
即席めん(41.0%日清食品)
ねり歯磨き(43.1%ライオン)
宅配便市場(46.3%ヤマト運輸)
衣料用合成洗剤(42.2%花王)
コンタクトレンズ(42.0%J&J)
DVD録再機(41.5%松下電器産業)

寡占化

31%

このシェアに達すると売上アップ比率が低くなる。

スナック菓子(37.1%カルビー)
台所用洗剤(34.7%P&G)
宅配便(33.5%ヤマト運輸31.0%佐川急便)
総合感冒薬(33.2%大正製薬)
コンビニ(32.0%セブンイレブン)
目薬(31.6%ロート製薬)
清涼飲料(31.0%コカ・コーラグループ)

市場的影響

トップシェア

26.1%

この程度の数字で1位を占めているブランドや企業は多い。しかし、いつ下位に逆転されるか分からない不安定な状態のトップだ。同時にこの数字は、2位であっても市場に影響を与える水準値として、相対的安定シェアとともに目標にされている。ちなみに「市場に影響を与える」とは、ある企業が新商品を投入したり、キャンペーンを行うなどして動きだすと、競合もそれを無視し切れず、同調、あるいは対抗手段をとらざるを得ない状況をさす。また、不思議なことに、この水準のシェアをとっていて3位以下というケースはない。地域一番店の条件に達したといえる。

普通紙コピー機(29.5%キヤノン)
自動車総合(29.2%トヨタ)
油圧ショベル(28.8%コマツ)
レンタカー(28.4%トヨタレンタリース)
オフィス家具(27.5%岡村製作所)
カーナビ(27.2%パイオニア)
チョコレート(27.2%明治製菓)
しょうゆ(27.0%キッコーマン)
シャンプー(26.7%日本リーバ)
電子辞書(26.5%シャープ)
携帯電話端末(23.6%NEC)
婦人下着(23.3%ワコール)
二輪車(23.0%ヤマハ発動機)

並列的上位

19.3%

1位であっても安定しない。

ガソリン(22.7%新日本石油
     19.2%エクソンモービル)
ファミレス(22.6%すかいらーく)
パソコン(21.2%NEC 19.8%富士通)
洗濯機(22.8%松下電器産業
     20.7%日立製作所 19.1%東芝)
冷凍食品(19.6%ニチレイ)
ボールペン(19.4%パイロット)

優位シェア

15%

繁盛店シェア。ここに位置しているときは販促を積極的に進める。

デジタルカメラ(16.6%キヤノン)
ルームエアコン(16.5%ダイキン工業)

市場的認知

10.9%

市場においてようやく存在が確認される水準。自分の存在が市場全体に影響を与える。
つまり生活者が「こういうブランド(企業)もある」と思いだしてくれるレベルである。これ以下では、生活者の記憶にも残りにくい。

携帯電話端末(11.8%シャープ)
宅配便(12.6%日本通運)
人材派遣(12.6%スタッフサービス)
クレジットカード(11.2%JCB)
百貨店(11.6%高島屋
     10.7%ミレニアム 10.7%三越)
自動車総合(10.8%スズキ)

市場的存在

6.8%

市場において、ようやく存在を許されるシェア。競合相手が自分の価値を認める。これ以下のシェアでは、今後よほどの成長が見込まれない限り、市場から撤退する方が賢明である。この水準では、生活者が、他人に言われてやっと思い出す程度の知名度しかない。

スナック菓子(7.9%湖池屋)
総合感冒薬(7.7%全薬工業)
ファミレス(7.7%デニーズジャパン)
携帯電話端末(7.3%ソニーエリクソン)
人材派遣(7.1%パソナ)
清涼飲料(6.9%伊藤園)
レンタカー(6.8%日産レンタカー)
宅配便(6.0%日本郵政公社)

 データ出典 : 「市場占有率2005年版」(日経産業新聞編)

 このクープマンの目標値により、まず第1に目指すべきは、市場的存在シェアの6.8%、このレベルが達成できたら次は10.9%の市場的認知シェア。そして最終的には26.1%の市場的影響シェア(トップシェア)を目指す。

 2−5−2 商圏人口と年間消費支出金額を確認する
 商圏とは、自店からの一定の距離(または移動時間)の範囲内にどれくらいの顧客人数(または世帯数)があるかということで、市町村のホームページ(県統計課が毎年発行する「丁町別人口」)等で字別の人口(世帯数)を把握する。また、実際に来店する顧客名簿(ポイントカードやアンケートなどで集約する)により、道路事情等が原因で自店に近くても来店しないエリア、遠くても来店するエリアの傾向が次第に判明してくれば、それに応じて商圏人口(世帯数)の見直しを定期的に実施できる。
 明朗塾は 八街市 東部に位置し、直営店舗「めいろう」も同じく東部に位置する。 八街市 中央部には国道409号線が縦貫し、この国道の反対側(西側)からの来店はあまり見込めない。一方東側には 山武町 が接する。商圏人口は 八街市 (二区・七区・朝日区の一部・大 東区 の一部)で8,361人、3,106世帯。 山武町 (沖渡・大木の一部)で1,894人、655世帯。合わせて10,255人3,761世帯。
 年間消費支出金額とは、総務省統計局ホームページ(http://www.stat.go.jp/data/)から入手できるデータでたとえば1世帯当たり1か月間の収入と支出の金額がわかる。平成15年度の家計調査(総世帯)結果表(平成16年5月18日公表)『第1表 1世帯当たり1か月間の収入と支出(全世帯・勤労者世帯・勤労者以外の世帯)平成15年度』によると、パンは1,912円(支出構成比は0.7%)であることがわかる。
 商圏内需要額は商圏人口×一人あたり年間消費支出金額であるから、235,290千円となる。明朗塾の直営店舗「めいろう」でパンの消費は年間2億3千5百万円にもなる。
 平成15年度のパン売上高は13,311千円であるから、シェアは5.6%である。

 2−5−3 目標販売額を確定し生産体制を整える
 
平成15年度におけるマーケットシェア5.6%を、クープマンの目標値に当てはめると、市場的存在シェア6.8%にも及ばす、生活者が他人に言われてやっと思い出す程度の知名度しかない水準となる。
 ここで、目標販売額の確定であるが「市場的存在シェア6.8%」であることは明白である。このシェアを達成するには年商が15,999千円、月商1,333千円、日商53千円であればよいことになる。
 平成15年度は平均日商44千円であったから、一日あたり9千円増やすことが数値上の目標になる。一日あたりの目標廃棄率3%、平均単価100円とすると、一日550個のパン製造が可能な生産体制を作ることもシェア拡大に必要不可欠な条件となることが見えてくる。
 同様に、市場的認知シェア10.9%と市場的影響シェア26.1%を達成するための目標販売額を算出すると、それぞれ日商85千円、日商204千円という数値がでてくる。そのための必要製造量は880個と2,110個になる。現在の設備でそれだけの製造が可能かという検討から今後の設備投資計画の立案も必要になろう。
 いずれにせよ、根拠のある具体的目標値を持ってこそ、目標が達成できたか未達成かが測定可能になるし、目標未達の場合の対策への心構えが違ってくるようになるのである。


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